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2009年第4号 地域のパンデミック・プランニング
地域医療の現場の守り ブタインフルエンザの流行勃発と発熱外来の課題(その2)

西村秀一

独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部病因研究室長・ウイルスセンター長

はじめに

前回は、勃発して間もない新型インフルエンザについてリアルタイムで原稿を書き、緊急テーマとして盛り込み、発熱外来を絡めて考えてみた。そして、それから3か月、日本も多くのことを経験してきた。それぞれの自治体で多くの関係職員が否応なしにさまざまな対応に忙殺された。そうしたなかで発熱外来も待ったなしでつくられた。とくに日本での出現前後とその後しばらくの間、発熱外来に限らず、さまざまな面で見られた混乱と言ってもよいような出来事は、今後の新型対策、すなわち、まずは直近でこの冬予想される大きな流行に、そして長期的には病原性の高さが予想される鳥由来のインフルエンザに向け、われわれに大きな課題を与えたと考えるべきであろう。

今はこの冬に向けて残された時間で対策を練り直す時期だろうが、それには、ここまでの総括、検証が必要であろう。今回は発熱外来あるいはそれに準じるものに絞って、筆者なりに試みてみたい。

1.各地で一般的に見られた、「発熱外来」の情景

多くの自治体で、WHOのフェーズ4の時点で、既定のインフルエンザの行動計画に従って、新型インフルエンザの地域での封じ込め、患者の指定医療機関への誘導を目的に、発熱外来の設置準備が開始され、その後フェーズ5で実際に開設されている。それらのほとんどは、結果的には、とくに患者が頻発した関西地方に顕著に見られた、地域における受診者と患者の増大とそれによる病院の負担増と地域医療の混乱の事態を受けて厚生労働省が6月19日に出した、運用指針の見直し通達、その中でもとりわけ「全医療機関での受け入れ」というに指示に応え、役目を終え閉じられている。ここで、筆者が知りえた設置状況とそれに対する筆者の感想を述べてみたいと思う。

まずは設置の様式だが、多くは自治体が、それぞれの行動計画で決めていた医療機関が発熱外来を設置するかたちをとり、それらがあらかじめ決めておいた手順に従って設置している。報道で見る限り、病院の外に臨時にテントを設営したものが多かったように思える。新型インフルエンザが疑われる患者は、そこにいたるまで、各地域の保健所等が設置した電話等による発熱相談である程度絞られてはいた。そのために、多くの発熱外来では、混乱といった事態にまでは至らなかったようである。むしろ、インフルエンザという急激な患者の増大をともなう感染症では当然予想される事だが、実際に患者が頻発した地域では、予定していた指定医療機関の入院病床がすぐに満杯になり、そうした事態に耐え切れなくなっていたような様子がうかがえ、そこらへんが6月19日の運用指針の見直しにつながったものかと思われる。以前から筆者も指摘していた、患者を隔離入院させることでインフルエンザという病気を地域で封じ込めるといった幻想に近い施策が、実際に破綻する場を見た感がある。

そうした発熱外来では、初期対応にあたる医療従事者が、患者の誘導から診察までのすべてのプロセスを、こぞって頭の先から足の先まで防護用品でくるまれた重装備で行っていた。それまでの病原性の高いH5亜型を想定した行動指針そのままである。メキシコでの死亡者の多さの報道もあって、確かに最初のころは新型がどんな病原性でどれだけ怖いものかわからず、そのような対応に疑問ももたずに従わざるを得なかったのかもしれない。…が、後付けの論理との非難を覚悟で言えば、やはりそれは誤りである。筆者は、H5N1想定の行動指針であってもそれは怖れ過ぎによる”やり過ぎ”であり、それぞれのリスクでやり方を変えるべきということを、これまで述べてきたし(ref.1)、厚生労働省が募集したパブリックコメントでも主張してきたが、その懸念が現実のものとなったといえる。こうした対応は、他の国から見ても奇異に映っているはずである。関西地区の某発熱外来のまさに上記のような様子が、英文での説明付き写真としてネット上に流れ、台湾で、ガスマスクをした人がターミネーターの映画よろしく学校の教室を大型噴霧器で消毒している写真や、タイで何人もの白ずくめの人たちが横一列になって人の行きかう道路を消毒している写真と同列に扱われている。

中世ヨーロッパのペスト流行時の医師の姿とされる絵現代に住むわれわれは、中世ヨーロッパのペスト流行時の医師を描いた1枚の絵(図1)……防止をかぶって黒マントで全身を覆い、顔には鳥のくちばしのようなマスクをし、手袋をして棒を持ち、棒で患者を突っついて診察する……を見て笑うが、われわれも後世の人たちから同じような目に会うのかもしれない。
 だが、救いはないわけではない。同じネット上で、同じく関西の病院の発熱外来の写真で、看護師がサージカルマスクをしているくらいで、いたって通常の装備で受診者に接している様子を写したものもあった。

聞いた話で恐縮だが、ある人が熱を出した小さな子どもを連れてある発熱外来を受診したときの、笑うに笑えない実話がある。

「そこに行くなり、目のまえに、頭の先から足先まで全身白ずくめで見たこともないような変なマスクをしてゴーグルをかけた(看護師さんと思しき)人(…外からは性別判別不能…)が現れて、2メートル先から問診を始めたんです。どうなったと思いますか? それを見たとたん、大泣きで診察どころではありませんでした。」 笑い話のような話だが、本当にあった出来事である。子どもでなくとも、いったい何が起きるのかといったところで、患者さんにとっては不安この上ないし、それを傍で見ている人たちも、何かものすごく怖しい病気のような気になってくるはずである。それをやっている本人も、こんなのは馬鹿らしいと思いながら仕方なくやっているのならいいが、素直な御仁であれば、その気になってくるかもしれない。

耳に聞こえてくる各地の発熱外来に関する笑い話のような話は、ほかにもいくつかある。そのたいていは、怖がり過ぎによって起きたものである。

2.個性的システム

次に、個性的な3つの地域の例を関係者からの聞きとりをもとに紹介してみたい。ひとつは多くの読者が興味を持っていたであろう、世間に言う「仙台方式」をとった仙台市、あと2つは筆者の印象に残ったものの中から、栃木県宇都宮市の発熱外来と静岡市の発熱トリアージセンターの例を紹介する。

1 仙台市と仙台方式について

目的と経緯、概要

当初、同市が市医師会との協議を踏まえ、想定していた医療提供体制は、国のガイドラインに示された発熱外来は設置せず、地域の診療所が発熱外来の機能を担い、重症患者は入院治療施設が対応するというものであった。本年2月18日、市長が市医師会長に協力を求めその全面的な協力を取り付けており、その後同医師会を始めとする医療関係者や学識経験者からなる会を立ち上げて、市の方針への承認を得た上で医師会の会員に協力を求めようとしていた。

ところが、その初会合(4月28日)直前、新型インフルエンザが発生し、WHOのフェーズ5宣言後、宮城県からの要請により、感染症指定医療機関である仙台市立病院に発熱外来を設置することになり、当初想定していた方針の修正が必要となった。

それでもその後、医師会員の間に、地域の診療所が発熱外来の機能を担う自覚と気運が醸成され、結果的に6月19日の国の方針転換を先取りするかたちで、市内で大流行が起きたときには地域の診療所が広く患者を受け入れるとの医師会としてのコンセンサスが整ってきた。

本方式は、地域の診療所が通常の外来診療において軽症新型インフルエンザ診療機能を担い、保険調剤薬局と連携し抗インフルエンザ薬の処方による自宅療養を基本とし、さらに重症者については入院治療施設で治療を行う態勢を構築しようとするものである。

内容

流行初期段階においては、各区の保健所の電話相談で感染が疑われる市民を、仙台市立病院に設置した発熱外来で診断・治療を行い、市内での大流行時に「軽症新型インフルエンザ診療機能を担う地域の診療所」に初期診療の場がシフトするものである。

6月19日時点で、内科系283施設の82%、小児科系50施設の86%をはじめとして、仙台市医師会開業会員の48%にあたる329診療所が、参加を表明し、それに対して市側からの支援策としてタミフル®とN95マスクが各診療所に配られている。一施設あたり上限15人で、1人30錠のタミフル®と1人50枚のN95マスクである。

6月19日の国からの運用指針の見直し通知とともに、実質的にこの態勢がスタートし、結局、6月30日に市立病院の発熱外来は閉鎖し、7月1日に全市的に通常の診療態勢に戻っている。

良かった事、明らかになった課題

(1) 最初からここに紹介したような多くの施設の参加があったわけではない。もともとは、H5N1鳥インフルエンザを想定した方針の一環として、今回の新型インフルエンザの出現するずっと以前から募り始めて、その後新型出現報道が日本にもたらされ約1か月がたち大勢が判明した5月20日の時点で24%分の166施設、その後の5日間で142施設から申し出があり、参加が一気に倍近く増え、さらに6月19日までで21施設が参加を申し出ている。(7月1日時点では、329施設が協力を申し出ている。)

(2) だが、今回は、たまたま、出現した新型の病原性が、季節性のインフルエンザと大きく変わらないという情報が流れたために、安心と見てこの方式に参加する診療所が多かったと言えないことはない。ここでは繰り返さないが、筆者が前号で指摘したこの方式の抱える根本的「危うさ」は、この冬についても、さらには高病原性のインフルエンザの出現に対する危機管理の上からも、解消したわけではない(ref. 2)。筆者が指摘するまでもなく、多くの市内外の医療関係者から、同じような懸念は聞こえてきている。その後、市当局もそこは重々理解していることがわかった。その課題を埋めていく「進化こそが仙台方式である」という意気込みで現在取り組んでいるとのことであり、今後に期待したい。

(3) 結局、仙台市周辺では7月まで、仙台方式による「軽症新型インフルエンザ診療機能を担う地域の診療所」が新型インフルエンザ患者を診なければならないほどの、関西で見られたような大きな流行は実質的に起きておらず、患者数も極めて少なかった。そのため、混乱期にこの態勢がどれだけ機能するかを試す機会はなかったと言っても良い。この冬、仙台に日本中の注目が集まることになろう。

次に二つの例を、主に関係者の聞き取り情報をもとに筆者のコメントを交えて紹介する。多くが国の行動計画が描いていた発熱外来のうち、医療機関に設置するかたちをとっていた中、これら二つは市中に独立して設置する方式をとったものである。

2 静岡市の「発熱トリアージセンター」の試み

概要

国の方針通り患者の封じ込めを大目的とし、発熱相談センターで把握された新型インフルエンザ疑い対象者に簡易検査等の一時スクリーニングを実施し、その後の診療対応に結びつけ、これにより、感染症指定医療機関を含む対応病院等及び診療所の負担軽減をはかることをめざし設置され、検体採取と迅速診断キットによるインフルエンザ診断と、患者へのタミフル®処方(感染拡大防止を目的とした2日分の短期間治療分配布)のみを実施している。

内容

発熱相談センターはフェーズ4の4月28日の時点ですでに設置済みだったが、成田で国内初の新型インフルエンザ患者が把握されたちょうどその日の5月9日、周辺6町内会への説明後、同12日に市内「保健福祉エリア」に仮設テントで設置 その後市民向けチラシの配布や広報回覧で周知をはかっている。医師、看護師、薬剤師、受付の4人の市職員(医師は保健所の医師ひとり)で、当初10日間の予定で10時から18時まで開設、患者に対応し、それ以外はオンコールによる24時間対応を行ったという。10日間経過後、さらに1か月延長している。

タミフル®の受診者への投与も、拡大防止を目的とした2日分の短期間治療分の配布のみであり、治療行為は一切行わなかったために、患者の費用負担は一切なしにしている。

そうしたタミフル®予防投与延長に当たり、医師会に対しては、インフルエンザ様症状の患者の来院の際には可能な限り診療所においても迅速診断キット検査を実施することが要請されており、キット検査陽性例は発熱相談センターへ連絡、その後は保健所が対応する道筋ができていた。そのために、医師会に対してはサージカルマスク8,500枚を配布していたという。

良かった事、明らかになった課題

この静岡市特有のシステムも、実際は、当初国の指針が想定したような対応病院の発熱外来の立ち上げ調整が難航していたため、発熱患者の受診先の確保が困難な状況が起きていたという事情が、大きくはたらいていた。地域での臨床像が明らかになるまで医療機関外で振り分ける事で、医療機関が冷静に対応できるようになるまでの「時間稼ぎ」という意味合いが大きく、あくまで応急措置としての位置付けであったという。

(1) 医師会側からは、当初新型がどのような病原性でどれだけ怖いものかわからず医療現場に極度の緊張があったときに、診療所に新型疑いの患者が直接訪れないよう、一種の交通整理としての役割を果してくれたことに対し、インフルエンザ以外の患者さんへの医療の提供の確保に貢献したという視点で、高い評価がある。また、検査キットなどが入手困難になったくらい切迫していた状況下で、一元的にトリアージセンターが初期診断を引き受けてくれたことにより、医療従事者と市民に安心感を与えることができたとの評価がある。

病院側からも、患者の入院対応だけでも看護師、医師の人手が足りなくなっており、その上、病院独自の発熱外来の設置は多くの人手をとられることになりもっと大変な状況に追い込まれるので、このように行政がワンクッションつくってくれることについては感謝しているという話があった。

(2) そもそも流行がそう大きくなかったこと、発熱相談センター(4月28日〜)による(渡航歴の有無とか患者接触者等)患者の絞込みがあったこと、設置が市内1か所のみであり、またシステムが過剰な受診者に曝されず、その上、キットでの患者の振り分けに特化したことから、この少人数でも運営可能ではあった。だが、さらに流行が拡大し受診者が増えたり、その状態が長期間にわたるような状況では、これだけではもたないと思われる。

(3) このシステムだけでは、トリアージセンターのあとにもう1度医療機関を受診しなければならないといった、患者の2度手間の問題があった。患者の便宜を考えれば、発熱トリアージセンターと病院は物理的に近い方が好ましい。

(4) 拡大防止を目的とした二日分の短期間治療分の配布のみであり、治療行為は一切行わなかったために患者の費用負担はなしにしたが、流行が拡大し、受診者数がさらに増大してきた場合には、予算上それを続ける事も困難となる。

また、当初から予定はしていなかったものの、発熱外来としての機能を持たせたり保険診療を行なうには、この態勢では無理である。幸い軽症者が多いということがわかってきており、このままこの冬も軽症例がほとんどの状況が続くようであれば、仙台のように地域の診療所がトリアージの中心母体になることも選択肢として考えておく必要があろう。

(5) キット陰性者の対応については、静岡市の例だけに留まらず、どこの発熱外来でも今後の課題となることだと思われる。(トリアージセンターで)キット陰性で帰された人については、その後のフォローがなく、キットの偽陰性の出現率約20%を考えれば、患者の見逃しの問題も、十分考慮すべきであろう。

3 宇都宮方式「発熱外来」: 地元医師会の全面的な人的応援による発熱外来(図2)

概要

宇都宮市は、それまで医師会の全面的協力のもとに、病院勤務医ではなく医師会会員が詰める形の市中発熱外来の設置を、病原性の高いインフルエンザを視野に計画していたが、今回の新型インフルエンザの場合にも、そのシステムを実際に運用してみたというかたちである。

内容

設置主体は県であり、栃木県立がんセンターのブランチとしての発熱外来という位置付けで、市内にある医師会立看護学校の講堂を開設場所に、あさ9時から夕方17時まで開き、それ以降は夜間診療所と指定医療機関で対処した。スタートは、新型患者が大阪で多数出ていたものの地元では出ていないころであり、患者が地元に1人出た設置第1週めは、保健所の医師ひとりだけで済んでいたが、その後、第2週めあたりから医師会の応援がスタートした。終了のきっかけは6月19日の厚生労働省による全医療機関での受け入れの通知であった。

図1 宇都宮市第一発熱外来診療所当初の目標は、2ブース制で、1ブースあたり2人の医師が1時間交替制で働くかたちで、午前4人午後4人の医師が詰める態勢であった。実際には患者もそう多くでもなかったので1ブース制で午前2人午後2人態勢の運営となった。1時間交代にしたのはPPEの長期着用が難しいためだという。
 医師会の理事と感染対策委員約20名の参加でスタートし、今回はそれで間に合ったという。ただし、実際に市内で大流行が起きた場合については、医師会内部の話し合いでは、80人の会員が参加を表明しているという。発熱外来に参加した医師に対しては、県の非常勤職員としての身分保障と給与保障があった。参加医師の専門性の面は、インフルエンザをふだんからよく見なれている内科、小児科の先生と、専門外の先生のペアで詰めることによりカバーしたという。これにより悩むような症例のときも前者に学ぶ事が可能となるという。
 看護師については、市内保健所の看護師、保健師60人で対応し、検査技師はとくに配置せず、キット検査はナースが実施し、薬剤師については、市内保健所の薬剤師が詰めた。
 処方は、タミフル®、タミフル®ドライシロップ、リレンザ®のいずれかのみであり、診療は重症度診断が主で、その意味ではトリアージ主体の、静岡の発熱トリアージセンターにも近いといえる。そのための検査としては、サチュレーション・モニターによる脈拍数、動脈血酸素飽和度の検査が用いられ、全身症状観察と前者で、必要性が認められた患者に対して聴診を行ない、胸部X線撮影の設備は置かなかった。

良かった事、明らかになった課題

(1) 場所として広くて、天井の高い講堂を使ったので、患者からウイルスが出されたとしても、希釈効果が期待でき、むしろ狭いテントなどでやるよりも職員と非インフルエンザ患者の安全が担保される。陰圧なども当然必要ない。

(2) インフルエンザの診療に慣れている医師とペアを組む二人体制のおかげで、普段はインフルエンザの診療に当たる機会の少ない医師でも発熱外来への参加が可能となった。これは、今後、この種の発熱外来が設置される場合に、できるだけ多くの開業の先生方に参加してもらう上で、非常に参考になるやり方だと思われる。 

(3) 発熱外来という名ではあるが、実際に行っている内容は静岡市の発熱トリアージセンターとほぼおなじである。ただし、あちらは無料で、こちらは有料(保険診療)。できれば一受診あたり処方の程度にかかわらず一律いくらという会計にできれば(医療現場ではよく「まるめ」ということばが使われる定額支払い方式)会計手続きの負担は軽減されるのではないかというのが、現場からの声である。

またここでは胸部X線検査はなかったが、機能を充実させるためにはSARS流行時の台湾大学での発熱外来のように(ref.3)、可能であれば移動式の装置があり放射線技師もスタンバイしているような態勢が望ましい。それが無理であれば検査のために病院に送りたい。そのためには病院に近い発熱外来が望ましい。

(4) 医師会の応援があった理想的な発熱外来であったが、実際に参加した医師からは、いつから発熱外来に参加するか、ということが大事であることがわかったという話を聞いている。結局、自分の診療所を閉めて参加することになるので、いつ発熱外来に行くのでその期間は、診療所を閉めるということを事前にかかりつけの患者さんたちに公示する必要があり、突然の要請による対応ではできない。あらかじめ何日か前にスケジュールが決められている状態が好ましいとのことである。

(5) 看護師は、市内保健所の看護師、保健師60人でカバーしたが、それは医師会の先生方が、自分の診療所の職員をつれてくることに反対したからであった。今回は、これでも良かったが、流行が大きくなった場合などは、行政の看護師だけでカバーするのは不可能である。今後、ここの検討も必要である。ここにも怖れすぎの弊害があり、その是正教育の必要性が見える。

(6) 今回は、新型インフルエンザ患者の囲い込みという目的があったため、キットでインフルエンザが疑われた患者に対してPCRの検査が求められたが、その結果が出るまでの6時間は自宅待機をお願いしなければならず、その間の治療の問題もあったという。本来は振り分け機能だが、その間も解熱薬や対症療法も必要になってくるが、疑い患者にそれをやってくれる医療機関を決めるのに苦労があったというのである。可能であれば簡単な保険診療である程度処方の種類の数を絞った対症療法薬の投与も可能となるよう、院外処方ができれば良い。県立癌センターのブランチとしての位置付けなのでレセプトも、そちらの方から出したかたちで出す事は、本来は可能なはずであったという。ただし、その場合には調剤薬局との協議が必要となろう。狭い調剤薬局の待合室での他の客や従業員への感染が心配であり、広い駐車場で待っているところに、職員が薬を持っていくような形か望ましいのではないか。

(7) 今後は、国の方針に従って、この形の発熱外来はやらない。ただし、悪性度が上がった場合、流行規模が極端に大きくなったときなどは、事前の申し合わせに従って、医師会の協力を得て、復活することはありうる。その場合には、開業の先生方も自分の診療所での受け入れが困難になり、自分の診療所で患者を診るよりはこちらを選ぶだろう。また、こういったシステムがないと地域の病院が破たんすることになる。

ただし、できればこうした発熱外来も病院に近いところに設置し、重症者の入院という意味だけではなく、対症療法が必要な場合や他の病気を疑った場合など、治療が必要な人を、すぐに病院で受け入れてもらえる形が良い。

そうなると、結局病院の救急外来機能に頼ることになるという懸念に対しては、処方は発熱外来(トリアージセンター)が院外処方として出し、病院には迅速診断キット以外の検査のオーダーを受け、必要であればその後の各科への受診を受けつけてもらう、というやり方もあろう。その場合、患者さんの便宜を考えれば、発熱外来と病院は物理的に近い方が好ましい。

そうなると病院併設型の発熱外来となって、結局は病院の人的資源の投入になり、病院の負担が大きくなってしまわないかという懸念もあろうが、あくまで物理的に近いというだけで、発熱外来で働く人間は、なるべく病院の職員をつかわずに、今回のように医師会の協力を得て行政側がやるような形を堅持すべきである。

(8) やめるタイミングについて。今回、発熱外来を閉じるタイミングにも苦労したという。開設のタイミングもそうだし、それは宇都宮だけに限らずもしかすると国レベルでもそうではないかと思われることが多々あるが、こうした行政の住民サービスとしての試みには、多分に政治的なパーフォーマンス的要素が絡んできて、純粋な疫学的判断とは別次元の判断が入ってくることがあることが、現場としては悩ましい。

おわりに

今、われわれの前には大きな選択肢がある。1)この冬に向けて、何か特別のことはせずにこのまま通常の態勢でシーズンに突入していくか、2)この冬、大流行が起きる事を前提に、何らかの対策を立てていくか、である。いろんな予想はあるが、本当のことはだれも起きてみなければ、わからない。これまでどおりの医療態勢で、あとは運が良ければいつもの冬と同じような流行で終わる。すべて早い者順、運が悪ければ大流行になり、抗ウイルス薬やマスクもなくなったらそれでおしまい、治療も医療機関の待合室が混みまくり、重症者の入院治療もままならなくなるだろうが、それは運が悪かったということとするのが前者である。これも、ひとつの哲学ではある。

もしわれわれが、後者を取るのであれば、その準備はまさに今しかない。残された時間は少ない。今回の春から夏の出来事は、その大きなヒントとなるものである。

さらに言えば、この春の経験は、例えばH5N1鳥インフルエンザのようなもっと、ずっと病原性の高いウイルスが新型インフルエンザとしてやって来た場合の予行演習として捉えることも可能である。それらは、その対策を考える上での修正点を探る良き材料でもある。その脅威はまだなくなったわけではない。

この場をお借りして、さまざまな資料、情報を提供してくれた、仙台市保健衛生部長の高橋宮人氏、宇都宮市保健所保健医療監の来栖博先生、静岡市保健衛生部長の望月秀樹氏に対して深謝したい。

References

  1. 西村秀一: 地域のパンデミックプランニング(17)地域医療の現場の守り 戦術(その2) 理屈にこだわる現場の対応……具体的リスク評価と防護具(PPE)の選択:「メリハリ」について インフルエンザ 9: 313−319. 2008.
  2. 西村秀一: 地域のパンデミックプランニング(20)地域医療の現場の守り ブタインフルエンザの流行勃発と発熱外来の課題(その1) インフルエンザ 10: 257−264. 2009.
  3. 西村秀一: 地域のパンデミックプランニング(18)地域医療の現場の守り 戦術(その3) 発熱外来(fever clinic) について  インフルエンザ 10: 65−71. 2009
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